結論他社の改善事例をそのまま導入しても、業務改善は定着せず、形だけが残ることが多く起きます。原因は実行力や現場の問題ではありません。他社事例を「答え」として扱ってしまう課題設定の誤りです。よくある状況業務改善の検討で、次のような言葉が出てきます。他社ではこのフローで回しているベストプラクティスとして紹介されていたコンサル資料に載っていたそして、改善の進め方はこうなります。事例の業務フローをベースに設計する自社の業務を当てはめる合わない部分は現場で調整する一見、合理的で失敗しにくそうに見えます。しかし、この進め方には落とし穴があります。なぜ「他社事例」に引っ張られやすいのか① 正解に見えてしまう他社事例は、すでに成果が出ている誰かが成功と評価しているという理由で、思考を止める力を持っています。「これで良いはずだ」という安心感が生まれます。② 自社を深掘りしなくて済む自社業務をゼロから整理するのは、時間がかかる面倒議論が荒れやすいため、既に形になっている事例に頼りたくなります。③ 説明しやすい「他社もやっている」「成功事例がある」は、関係者への説明がしやすく、合意を取りやすい理由になります。誤りの本質このパターンの本質的な誤りは、「他社事例が解いている課題」と「自社の課題」を区別していないことです。他社の業務フローは、その会社のその事業その組織構造そのリスク許容度に最適化されています。自社に当てはまるとは限りません。なぜうまくいかないのか① 前提条件が違う業務改善が機能するかどうかは、次の前提条件に強く依存します。人員構成業務量権限と責任の置き方例外の多さ顧客ごとの個別対応これが違えば、同じフローでも結果は変わります。② 「合わない部分」が現場に押し付けられる事例に合わない部分は、現場で工夫する柔軟に対応するという形で吸収されます。結果として、ルールはあるが、実際は守られていない裏ルールや例外対応が増えるという状態になります。③ なぜそのやり方なのか説明できない「なぜこのフローなのか?」と問われたとき、他社がやっているからベストプラクティスだから以上の理由が出てきません。この状態では、改善は「守るべきもの」にならず、時間とともに形骸化します。会議で起きがちなズレた会話このパターンでは、会議が次のように進みます。「他社はこの承認段階を省いています」「このやり方が標準です」「例外は運用でカバーしましょう」一方で、次の問いはほとんど出てきません。なぜ自社では承認が必要なのか何を恐れてこの手順を踏んでいるのかどんな事故を避けたいのか本来設定すべき問い他社事例を見たときに、置くべき問いは次の通りです。① 他社は、どんな課題を解こうとしているのか?スピードなのか品質なのかリスク低減なのか② その課題は、自社にも存在しているのか?同じレベルで困っているのか優先順位は同じなのか③ 自社の制約条件は何か?人が足りないのか権限が集中しているのか例外が多いのか課題設定の言い換え例× 他社の改善事例を導入する〇 自社では承認に時間がかかり、意思決定が遅れている× ベストプラクティスを採用する〇 業務の目的とリスクが整理されず、確認作業が増えている× 標準フローに合わせる〇 例外対応が多く、現場判断が属人化している正しい課題設定に置き直すと、何が変わるか課題が明確になると、他社事例の使い方が変わります。事例は「完成形」ではなく「参考情報」になる自社の課題に合う部分だけを抜き出せるなぜそのやり方を選んだのか説明できる結果として、業務は「借り物」ではなく、自社に根づいたやり方になります。課題デザイン室の考え方課題デザイン室では、業務改善において次を重視します。他社事例をそのまま答えにしない先に自社の課題・制約・守る価値を言語化する事例は課題検証の材料として使う「なぜこのやり方か」を説明できる状態を作る業務改善が定着しないとき、原因は現場の抵抗ではなく、課題設定の出発点にあることがほとんどです。